Envy / Purity, 2008–12. Envy: Pakistani Onyx, stainless steel, Macedonian marble, wood, acrylic lacquer, steel, nylon, and plastic, 172.7 x 43.8 x 30.5 cm. overall. After Giusto Le Court (1627–1679), La Invidia, circa 1670, Ca’ Rezzonico, Venice. Purity: Mexican onyx, stainless steel, Macedonian marble, wood, acrylic lacquer, steel, nylon, and plastic, 175.3 x 41.9 x 30.5 cm. overall. After Antonio Corradini (1668–1752), La Purità, 1720–1725, Ca’ Rezzonico, Venice. Photo: Kevin Todora

ポール・レスター|2020年3月9日

美術界に残る歴史的傑作で印象的な彫刻ポートレートと芸術の精巧なリメイク作品で知られるバリー・X・ボールは、洗練かつ繊細な作品で過去と現在をダイナミックに結び付けています。コンピューター技術と計り知れないほどの時間の手作業をによって、彼は貴重な石を寓意的な芸術の非常に表現力豊かな彫刻作品とします。 3Dデジタルスキャン、仮想モデリング、ラピッドプロトタイピング、コンピューター制御のフライス加工など21世紀の技術と、実績のある伝統的な手彫りと研磨の手法により、切り出した石の粗いブロックを肉体的で具象的な彫刻に変貌させます。多くの場合、1つの作品を実現するのに何年も取り組んでいるというボールは、想像力を駆使して宇宙時代の手法を使用しながら、ルネサンスの巨匠のように強力なアートを作り上げます。

1990年代から現在に至る、彼の彫刻作品を概観する「バリー・X・ボール:リメーキング・スカルプチャー」は、2020年4月19日**までアメリカ・ダラスのナッシャー・スカルプチャー・センターにて展示されています。(**コロナの影響で同展覧会は2020年9月12日まで延長されました)

ポール・ラスター:20世紀のミニマリストの画家から21世紀の具象彫刻家にどのように進化したのでしょうか?
バリー・X・ボール:
形式が根本的に異なっていても、思考プロセスと分析は同じです。人々はミニマリスト形式を厳密な思考と関連付けていると思いますが、具象的な彫刻を作ることはまったく別の分野であると考えています。正直なところ、私はそれを、ミニマリズムから生まれ、イタリアのトレチェントやクアトロチェントの絵画など、はるか昔を彷彿させる以前の作品からの直線的な道であると考えています。具象的な仕事に取り掛かることは、完全な方向転換というよりは次のステップに向かうものでした。還元主義への信念を失ったわけではありません。

paired, mirrored, flayed, javelin-impaled, cable-delineated-pendentive-funnel-suspended, squid-like, priapic / labio-vulval, Janusian meta-portrait lozenges of the artist, screaming, and Matthew Barney, in two guises: determined combatant and recently-deceased, resigned stoic,with the first composite figure richly embossed, in a manner reminiscent of late-Renaissance Milanese parade armor, with a cornucopia of silhouetted motifs: Abrahamic ecclesiastical symbols, animals, decorative flourishes, and protuberant, warty, half-spheres; and the second devoid of embellishment, in book-split, medially-bifurcated onyx from Baja California: half an exuberantly-variegated, intensely-colored, fractal-patterned, striped-and-spotted white-yellow-red; half a comparatively-uniform semi-translucent, nacreous, pale yellow-white with differing surface treatments keyed to the corresponding swag-draped corporeal flay strata: a glistening mucosal sheen for the splayed entrails, either miniature horizontal flutes or a micro-stippled matte finish for the mid-level viscera, and either gnarled, ridged, sfumato-esque soft-focus ornamental relief or, again, diminutive horizontal flutes for the epidermis,with eyes and oral features gleaming, respectively, with a moist, lachrymal / salivary polish,with mannered, attenuated, crown-like cranium-top shatter-burst exit-wounds (detail),2000–07. Mexican onyx, stainless steel, 24k gold, and various metals, figures: 55.9 x 13.3 x 20.3 cm. each, stone/shaft assembly: 139.7 x 13.3 x 20.3 cm. each. Photo: © Barry X Ball, Courtesy Barry X Ball Studio

PL:デジタルテクノロジーを使い始めたのはいつですか?
BXB:それは私の具象的な仕事の初めからでした。 90年代半ばには3Dスキャニングについて聞いたことがあったのですが、当時は軍と映画業界でしか利用できませんでした。初期の頃、私はロサンゼルスに出かけて、主な主題として自分自身を使いました。人々が自身がポートレートでどのように見えるか懸念していたことは承知していたので、私は誰の気分も害さずに実験できるようにしたかったのです。ポートレートは常にアーティストと主題の間のダンスになるものでした。私たちは今、スペインのフィリップ4世よりも、ディエゴ・ベラスケスについて考えています。最初に自分自身を組み込み、次に同じように実験に参加できる仲間のアーティストを組み込む方が簡単でした。作品にある程度の強度を追加したかったので、最初にスキャンされた3Dポートレートで私は叫んだのです。私は頭を剃ってバーバンクに行き、特殊効果がされる場所に行きました。そこにはアーノルド・シュワルツェネッガーやブルース・ウィリスの胸像があり、彼らのプロジェクトがスキャンされていました。私はスタジオに座って、18秒間のスキャンサイクル中に叫びました。その彫刻ポートレートは、私が作った後のすべての典型的なものでした。それは高度な技術によって作成されました。ただし、最初は、モデルの多くがライフキャストされていたため、作成された石膏モデルをスキャンしてデータを操作していました。最終的に、私は物理的な石の彫刻を制作します。次に、作成された石膏モデルをスキャンして、データを操作します。最終的に、私は物理的な石の彫刻を制作します。次に、作成された石膏モデルをスキャンして、データを操作します。最終的に、私は物理的な石の彫刻を制作します。

PL:なぜ石で作品を製作しようと思ったのですか?
BXB:最初のスキャンの直後、ニュージャージーのジョンソン・アトリエのことを耳にしました。それはおそらく、当時アメリカで最大のアート製作施設でした。ジョンソンはその後、CNCフライス盤、スキャナー、ロボットワイヤーソーの素晴らしいスイートを購入してストーン・ディビジョン(石部門)を設立しました。彼らの能力を見て、ジョンソンはテクノロジーが未来であると確信していたので、彼らはそれに飛び込んで行ったのです。私は、機器を使用し、それを使って完成品を作る方法を理解した最初のアーティストの1人でした。私は何日も何ヶ月もの間、機械と並んで立っていました。私は最初から技術に深く関わっていました。製作者に彫刻を注文するだけでなく、偶然にも技術が石にリンクされていました。

PL:最初のポートレート彫刻の制作中に、Scholars ‘Rocksを同時に制作しました。これらの彫刻の出発点は何でしたか、彼らはあなたの新しい追求についてあなたに何を教えましたか?
BXB:大学を卒業した頃に私が好きだったアーティストはデュシャンでした。私は境界のない職業に就きたいと思っていました。私にとって、彼は最もオープンなアート制作方法を定義したアーティストでした。彼のレディ・メイドは、スノーシャベルや小便器など、工業的に生産されたものを再コンテキスト化する方法で、特に印象に残っています。通常の使用方法やプレゼンテーションから取り出し、ギャラリーの台座に置くことで、そのオブジェクトをまったく異なる方法で読み取ります。石を使い始めたとき、私が知っていたのは伝統ではありませんでした。なぜこの素材を使用していたのかを調査する必要があった中で、中国の伝統的な「Scholar’s Rock」石に出会いました。これは「天然の既製」と見なされていました。自然から美しい岩を選び、それを土台に置くという純粋な愛好家の行為によって、まったく新しいものであるアートワークを作りました。それらを見つけることと、それらの自然な形をコピーすることの両方の長い伝統があります。私は岩から岩を彫るという奇妙な行為さ好むのです。

molten compressed solidified eroded
selected deracinated isolated contemplated
appreciated collected copied distributed bastardized
discovered purchased expanded digitized stretched milled carved embellished
cultured rock, with contrasting elevated rectilinear socle and emergent integral stand,

2002–06. Sculpture: Mexican onyx and Belgian black marble, pedestal: wood, acrylic lacquer, steel, nylon, and plastic, 189.2 x 55.9 x 35.6 cm. overall. Photo: Kevin Todora

空の白い大理石や空の黒い花崗岩を自動的に選ぶのではなく、石に注意を払い、形式的に制作しているものと素材を前後に操作しました。この働き方が私のアプローチの特徴です。私は、石の使用は再検討が必要とされると考え、十分に活用されておらず、評価されていないものであると信じていました。イタリアのカララへの最初の旅行で、世界中から積み重ねられた30マイルの石材を見ました。それは世界の石のショッピングセンターです。そして思ったのが、「なぜアーティストはこの素材をその表現の可能性のために十分に活用しなかったのだろうか?」と。それらは色の混じり合いと静脈と穴と穴のある信じられないほどの質感を持っています。すぐに石材を探求したかったのですが、今でも自分の目の前には生涯を通しての実験があるかのように感じています。

PL:拷問された魂の様相で羨望の感情を捉えたGiusto Le Courtの《羨望 1670年代》と、純潔の補充的なシンボルとして機能する、18世期のアントニオ・コルディー二ベールによる、《ヴェールに包まれた彫像》をリメイクしたきっかけはなんだったのでしょうか?
BXB:私のすべての具象作品において、私は自分が叫んでいるような極端な例を探し求めていました。 ヴェネツィアのカ・レッツォーニコで《La Invidia》を見たのですが、奇妙なことに、博物館側は作品の作者が誰か知りませんでした。それは何年もの間匿名で棚に展示されていました。そんな中、美術史学者で、私の素晴らしい友人であり、また支持者でもあるローラ・マッティオーリが、アーティストと主題を特定する手助けをしてくれました。私はその作品とコラディー二の《Dama Velata(ヴェールに包まれた肖像)》の強烈さから、その2つの作品を同じコレクションに選択しました。怒りで満たされ叫んでいる老婆と純粋な若い女性の2つが存在しましたが、私は初めからそれらをペアーとしてみていました。それらは両極端に存在するビジョンです。—どちらも具象的な純潔と羨望です。多くの人々は、《La Invidia》の姿はヘビの髪をした女、メデューサであると考えていました。しかし、ローラはバロック時代の芸術家が使用した寓話的な脚本から真の主題を見出しました。この本は、基本的にもしあなたが嫉妬心を描写したいなら、髪の毛がヘビである怒った老婆をが使われる言っています。際立った雰囲気、石の重要性、そして私の側の作りの強さが全て一つになっていきます。私は、単純にそれらの作品に似せた別の具象的なものを作のではなく、人々を釘受けにする作品を作ろうとしています。私はそれを最大限に強固にしたいのです。

PL:あなたの作品は、情報のない批評家によって、単にオリジナルのコピーであるとして非難されました。あなたの作品は単なるレプリカをどのように超えるものでしょうか?
BXB:私の目標は、画像やオブジェクトが通常どのように私たちに伝えられてきたかを扱うアプロプリエーション・アートを作ることではありません。私の作品にはレイヤーにレイヤーを重ねていきます。図の特徴、石の色と石の脈、さまざまなテクスチャー(鏡面仕上げ、マット、ミリングパスマイクロフルーテッド)、時にはパターンが適用され、すべてが重ねられているのです。私の目標は、オリジナルの作品が持つ力をすべて保持させつつ、作品を完全に新しいところへ導くことです。素早く滑稽なジェスチャーをとることはしないのです。デジタルスキャンは完璧なコピーを生成します。次に、実際にそこにあるものを分析します。これはコールドデータであり、解釈ではありません。スキャナーが事実を収集し、それをスタジオに持ち帰って評価するのです。アーティストが概念的および物理的に達成しようとしていたことに興味を引かれます。それから私は、物事を彼らの方向に押したり、またはそれとは反対に押したりします。私は利用できるはるかに広い範囲の素材の持っています。私の彫刻の制作に適用できる、信じられないほどの技術により、私は先人が達成できたものを超えることができるはずなのです。私の作品が彼らの歴史的な前例と直接対立して示されるとき、私はそれが新しい作品であることを人々に説明する必要はありません。彼らは私が単なるコピーではないことを理解してくれます。

インスタレーション風景「Barry X Ball: Remaking Sculpture」ナシャー・スカルプチャー・センター, アメリカダラス2020年 写真:Barry X Ball

PL:リサーチが果たす役割は何でしょうか?
BXB:リサーチは作品の核となるものです。繰り返しますが、私は歴史的な彫刻からかけ離れた複製を扱ってはいないのです。私はオリジナルをスキャンして、アーティストがやろうとしていたことをすべて理解したいと思っています。私は美術史家ではありませんが、多くの歴史的なリサーチを行ってきました。たとえば、ミケランジェロの作品《ピエタ》に関して、私はそれがどのようにミラノにやってきたのかの逸話的な証明や、その展示と再発見の全歴史を含めた、すべてを学ぼうとしました。作品に何千時間も専念するつもりなら、前のアーティストが何をしていたのか全てを知りたいのです。私は表面を見ているだけではありません。私は、歴史的なアーティストの作品を、今までにない方法で、あらゆる角度から、内側からも見ることができるテクノロジーを利用しています。私の「マスターピース」シリーズのすべての前身である私の歴史的モデルについて、私ができるだけ多くを学ばないことは私にとっては怠慢になるのです。もう1つの例はメダルド・ロッソです。ニューヨークのザ・センター・フォー・イタリアン・モダン・アート(CIMA)での美しい展覧会で彼の彫刻に直接関わりました。そこで、CIMAの創設者であるローラ・マッティオーリと再び共同し、台座と展覧会の照明をデザインしました。私は作品に親密に関わり、最終的には、ロッソの相続人であるローラとダニーラ・マースールの助けを借りて、39作品をスキャンすることができました。

PL:今後の彫刻ポートレートや他の石の彫刻を実現するために、石の選択はどのくらい重要ですか?
BXB:非常に重要です。私の作品を特徴付けるものでもありますので。ベルニーニの作品を大理石で見ると、ほとんど真っ白です。ミケランジェロもそれを使用しました。現代では、ボリビア、ベトナム、ポルトガル、フランスなど、世界中から集められた石が入手できます。メキシコやユタ、またはその他地域などから直接石を入手することもあります。素材と表現の可能性は、形と協調して顕になるので、私が(素材となる石を)探求しないのはばかげたことだといます。私は今、作りたいものと手元にある材料との間を往来するために、特別に立ち上げた新しい最先端技術を擁するスタジオを持っています。石に見られるものに基づいて形を変え、暴力、スピリチャル性、人間性、奇妙さといった作品に重要な層をもたらす石を使うことができます。

PL:その種の作品を制作する初めから終わりまでのプロセスを伺えますか?
BXB:ヨーロッパで頻繁に作業することができ、そこの美術館で多くの時間を過ごすことができるということは大変幸運なことと感じています。まず、特に共鳴する歴史的作品を見つけだし、それにアクセスするということから始まります。次に、それを3Dスキャンし、結果の客観的データを分析して、どのように作業を進めるかを考えます。それから、作品を実現したいと思う素材を調べます。主に石を扱いますが、金属で作品を作ることもあります。私は自分の彫刻すべてに対して石のブロックをすべて自分自身で選択してカットします。新しいスタジオ用に注文した最初の機器は、カスタムメイドのコンピューター制御のダイヤモンドワイヤーソーで、石の地殻を切り抜き、ブロックの内部に隠されているものを明らかにするために使用します。そこまでの広範なデジタル操作(スキャンデータの仮想的な再構築)をようやく完了すると、そのデータを使用してコンピューター制御の石彫り機械を駆動します。自動車工場で見かけるような擬人化ロボットです。石を粉砕することは、24時間毎日稼働する機械で何ヶ月も持続的に継続できます。イタリアとニューヨークのロボット会社とともに仕事をしています。最後に、彫刻が私のスタジオに到着します。そこで、各彫刻で最長10,000時間手作業が行われ、機械では得ることができなかったアンダーカットを細かく仕上げ、磨き、彫り込み、それらの作品を私が望む熱狂的なレベルにまで引き上げます。

Hard Dark Soft Light, 2000–02. ベルジン黒大理石, Italian translucent white “Scaglione” alabaster, and ステンレススティール , 各頭: 32.39 x 14.92 x 19.1 cm. Photo: Kevin Todora

PL:《眠れるヘルマプロディートス》をあなたの作品としてを再現制作しようと思ったきっかけは何ですか?
BXB:ルーヴル美術館の《眠れるヘルマプロディートス》は、芸術史上最も有名な複合芸術作品である可能性があります。それは、2千年以上にわたって複数のアーティストによって作成されました。もともとは紀元前2世紀のギリシャの青銅で、紀元2世紀にローマで大理石で複製されました。シピオーネ・ボルゲーゼのコレクションとなると、19歳のときにベルニーニに贈られ、変化を遂げます。彼は壮大なベッドを作り、それによりかき乱す彼彼女の色気を向上させました。その他アーティストで、デビッド・ラリケは、フィギュアの修復を行いました。ルーヴル美術館の作品は、複数の石を組み合わせたモザイク作品です。私のアイデアは、21世紀の統合を作ることでした。半透明のイランピンクオニキスの並外れた一片からカットされたモノリスです。私は長年この特定の石を探しました。同じのような別のブロックを見つけるには、おそらくさらに10年かかる可能性があります。オニキスには、私の官能的な彫刻の多くにある、官能的な肉質の色と柔らかな半透明があります。私はいつも石の表面を突き破って、作品に内面の光があるように見せようとしています。私は、素材の難しさを克服するために可能な限りのことを行い、私の作品に空気のような精神性を吹き込みます。1人の人がしたことと、自然、あるいは神がしたことの組み合わせを考えずに《眠れるヘルマプロディートス》を見ることはできないでしょう。

PL:ミケランジェロの《ピエタ》再現した背景にはどのようなものがありますか。そして、なぜ賞賛的な意匠を加えて完成させたのでしょうか?
BXB:鏡像であることに加えて、2つの大きな変更を加えました。キリストの顔の代わりに、私はミケランジェロの肖像をそれに変えました。ミケランジェロは墓に向かう途中で戦い、発明を行った。これが彼の最後の作品であることを彼は知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれないが、事実、彼は自分の葬式の記念碑を彫っていました。それは長い間無視され、ほとんど忘れられていた特別な作品です。それは彼が死んだとき彼の家のインベントリーに含まれていたのですが、しかしそれは後に、ロンダニーニ家にきて、そして彼らの宮殿の中庭に保管されました。ロンダニーニの子供たちがそれと一緒におもちゃの車で遊んでいる20世紀の写真があります。ミケランジェロの基準にそぐわないようにみえ、その場に適していませんでした。しかし、今、その霊妙な象を見ると、なぜ誰しもが見落としていたのかと疑問に思います。エル・グレコ、ポントルノ、ブロンジーノの伝統にある、伸びた無重力の姿を作る中、マンネリズム、を創案したのはまさしく彼でした。

そこにはネオゴシックのような精神性があります。ミケランジェロは彼の人生が終盤に差し掛かる頃、非常に信仰的になります。彼は聖母マリアに身を捧げ、彼の建築作品はサン・ピエトロ大聖堂に寄贈しました。彼はモデルなしでこの作品を彫刻していたようで、石に直接働きかけているようにし、その手法は通常彼が彫刻を制作する方法でとは異なるものでした。この作品には、未加工の表面や半仕上げの表面から、非常に大まかに彫られて磨かれた筋道まで、すべてが刻まれています。まさに石細工技術のカタログと言えます。偉大な美術史家のレオ・スタインバーグは、これは他のすべての《ピエタ》とは異なると言っています。母親が死んだ息子の遺体を抱く代わりに、息子が母親を悲しみの中を支え、まるで背中に乗せているかのようだったからです。

左と右の両方からの側面図はありますが、ほとんど再現されていません。側面の構成には、非常に細長い曲線があり、その純粋さの中にはほぼブランクーシ風であります。私のバージョンでは、ヴァージンが立っているブロックを排除することで、そのスウゥープを強化したいと思いました。また、息子が彼女を運んでいるのであれば足が垂れるのはずなので、私は彼女の足もぐったりさせました。半透明の石を使うことで、さまざまな表面テクスチャを適用させました。私は霊妙でスピリチャルな作品を作りたいと考え、作品がわたしのものになるに連れて、ミケランジェロの彫刻が持つ全ての力を持っていることを願っていました。私は、まるで同じ作品で並んで作業しているかのように、私の刻印がミケランジェロのそれに重ねられるように、作品のロボットで削られた溝を調整するために全身全霊を込めて制作に取り組みました。

Sleeping Hermaphrodite, 2008–17. Sculpture: translucent pink Iranian onyx, pedestal: Greek Thassos marble and stainless steel, 105.4 x 189.9 x 105.4 cm. overall. After the Hermaphrodite Endormi (Ermafrodito Borghese), Musée du Louvre, Paris. Photo: Kevin Todora

PL:マルコ・ダグラーテの16世紀の《聖バルトロマイ》の彫刻があなたの作品の良い主題になると思ったのはなぜですか、またどのようにそれを変化させましたか?
BXBは:私は、世界で最も大きい教会とされている、ミラノ大聖堂の内装から初めて《聖バルトロマイ》を見ました。ローマの人物がトーガを身に着けているように見えましたが、近づいて見ると、聖者がコントラポストの位置に静かに立っていて、彼のほつれた肌が剥がれ落ちて肩に掛けられていたことがわかりました。奇妙な彫刻です。私はその驚くべき奇妙さにすぐに惹かれました。私のバージョンでは、オリジナルの姿である皮を剥がれた頭を、叫んでいる自画像に置き換えました。

マルコ・ダグラーテはミケランジェロと関係があり、彼の唯一の自画像は、システィーナ礼拝堂の《最後の審判》で聖バルトロマイの皮として自分自身を描きましたこの作品の私の自画像は、過去20年間使用していたものと同じ叫び声をあげたスキャンに基づいています。それは彫刻を作った男と彫刻の主題を結びつけます。私は、長い間イタリアで石の提供をしてくれてきた、良き友であるマルコ・ロンバルディに、血まみれの、赤い肉のような石を見つけたいと話していました。石の堆積物の中を一日中運転して、彼が見つけたいくつかの赤い石の構造と色を分析しました。最終的には、フランス・ラングドックのルージュ・デュ・ロワ(王の赤い大理石)を選びました。車よりも大きい、それまでに購入した石のサイズではもとも大きい22トンの巨大なブロックを購入しました。私の知る限り、その石は彫刻に使われたことがないので、彫るのは難しいと思いました。「USDAプライム(高級ランク)」の肉のように大理石が霜降られ、白い石目とさまざまな密度となっているため、彫刻に使用するのは非常に困難なのです。しかし、私は聖バルトロマイ肉の剥がされる感覚を高めようとしていました。彫刻は穏やかで白い大理石以上のものを求めて叫んでいたのです。私は、ぞっとするような主題と密接に連携する素材を求めていました。

PL:これは新設されたブルックリンスタジオで完全に実現された最初の作品でしたか?この最先端の設備は作品生産にどのような影響をもたらしましたか?
BXB:《ピエタ》の制作は、建物が完了する前であっても、部分的に、新しいスタジオで行われましたが、はい《Saint Bartholomew Flayed》は、全体を仕上げた最初の作品です。ニューヨークの小さな長屋にあった古いスタジオでは、それを実現できなかったでしょう。私は30年間、そのスタジオで多くの作品を手がけてきました。ほとんどがバストサイズ以下の作品です。しかし、大きな石を扱うには、20トンの高架橋クレーンやその他の巨大な機器が必要です。《Saint Bartholomew Flayed》は、私が今まで作ったものの中で最も激しい肉体的な彫刻、磨き、詳細を必要としました。私は非常に優秀なスタッフと共に作業に取り組み、9人チームのメンバーが2つの分隊にわかれ1日に18時間、何週間も何週間も働いて、素材と同じくらいの強度を実現しました。

Saint Bartholomew Flayed (detail), 2011–20. Sculpture: French Rouge de Roi marble and stainless steel, platform: aluminum, acrylic lacquer, stainless steel, and ABS plastic, 236.6 x 151.5 x 151.5 cm. overall. After Marco d’Agrate (c. 1504–c. 1574), San Bartolomeo, 1562, Duomo di Milano, Italy. Photo: Kevin Todora

PL:現在、ナッシャー・スカルプチャー・センターでの個展「Remaking Sculpture」で、ジェド・モースが探求しようとした、あなたの芸術作品の弧線(アーク)は何だったのでしょうか?
BXB:(展覧会では)過去20年間の私の作品のほとんどの例が展示されています。完全ではありませんが、この展覧会には、初期の頃からの石の作品や、彫刻ポートレート、また「マスターピース(傑作)」シリーズからの最新の彫刻である《聖バルトロマイ》が作品完成2週間後すぐにクレートに入れられ 、ナッシャーで展示されました。ダブリンぐはミラーリングのテーマは、《眠れるヘルマプロディートス》の2つの性別、マシュー・バーニーと私の二重の彫刻ポートレート、羨望と純粋、聖バルトロマイと肩にかけられた私、ローラ・マティオーリのデュアル彫刻ポートレート(ハードダークとソフトライト)、そしてデュアルスクリーミング彫刻ポートレートのアンサンブルと展覧会全てに見られます。このテーマは、私のメダルド・ロッソ プロジェクトの作品とともに、Nasherのコレクションにも及びます。ジェドは、私のバリエーションを反映した美術館(およびハワードラコフスキー)のロッソ彫刻のセレクションをインストールしました。《ピエタ》のこの男女によるダブリングはミケランジェロと聖母が見られ、台座の中でローマの男性と女性のカップルが繰り返します。私の壮大な試みである「マスターピース」シリーズでは、それらの傑作をミラーリングすることで2重にしています。それがかなり顕著であるので、私が以前にそのテーマに言及しなかったのはおかしいことです。ジェドと私が選択したほとんどすべての作品は、展覧会の趣旨にぴったりでした。

PL:展覧会に先立って、メサルドロッソの作品を作り直し、ナッシャーコレクションの作品との対話で発表できるようにしましたか?
BXB:この展覧会は約8年をかけてようやく芽が出ました。私たちが最初に展覧会について話した時に、私はちょうどロッソの作品について知り始めました。正確な順番は覚えていませんが、最終的にはロッソに夢中になったのです。私が関与したCIMAの展覧会は、彫刻、ドローイング、写真を含んでいましたが、私は主に彫刻に携わっていました。 メダルド・ロッソ作品アーカイブの管理者でもあるダニラ・マースレは、イタリアのパブリックコレクションおよびプライベートコレクションに存在する彼の作品のほとんどの例にアクセスできるようにしてくれました。最終的に、私の彫刻が一種のメダルド・ロッソのカタログレゾネを形成することを意図しています。

私の彫刻は、還元的に作られ、石から彫り出されていますが、ロッソのものは、石膏、ワックス、ブロンズから追加またはモデル化または鋳造されています。ナッシャーへの最初の訪問で、ギャラリーでロッソを見て、ジェドは保管庫からさらに2〜3作品を取り出しました。美術館の作品と一緒に私が何をしているのかを示すのは素晴らしいアイデアだと思いました。ナッシャーは通常、常設コレクションの彫刻を展示しようとしますが、そこに展覧会を行っているアーティスト(私のような)の彫刻に関連しています。私は歴史的な彫刻を扱う作家なので、ジェドは私の作品と一緒に何を展示するかをじっくり考えました。2つの像で成るブランクーシの《The Kiss》、ジャコメッティの2つのスタンディング作品を隣同士に展示するか、構成主義者からの現代テクノロジー、マティスとロダンの2つの具象的な作品、そして トニー・スミスとリチャード・ロングの石の作品など。

私の最近の美術館での展覧会では、コレクションとの関係を深く研究されたなかで展示されています。ベルサイユのような歴史的環境で現代の作品をただ展示することと、その場所や作品に直接リンクし、またはインスピレーションを受けた現代の作品を展示することを区別するのです。現代のフォルムと伝統的な建物を並べて身震いや摩擦を作り出すことよりは、自分が展示している場所とその中の作品についてすべてを理解し、その状況に直接対応することにより興味を示します。ナッシャーでの展示は、モダニストの彫刻との直接対話で私の作品を紹介する私の最初の機会となります。展覧会を数年間かけて実現したことで、ナッシャーのコレクションに触発された新しい作品、メダルド・ロッソのプロジェクトを制作する可能性が生まれました。Jed MorseとJeremy Strickの辛抱強さと寛大さにはとても感謝しています。私のように彫刻を仕上げるのに何年もかかるアーティストが、物事を正しく行うために十分なリードタイムを与えられることはまれなことですので。

Doorwoman, 2013–19. Sculpture: translucent pink Iranian onyx, pedestal: white Vietnamese marble, chrome-plated steel and aluminum, and stainless steel, 171.8 x 84 x 84 cm. overall. After Medardo Rosso (1858–1928), La Portinaia, 1883–84, Galleria d’Arte Moderna, Milan. Photo: © Barry X Ball, Courtesy Barry X Ball Studio

PL:ロッソ作品はあなたを抽象概念へと回帰するものでしょうか?
BXB:私の目標は、モデルを認識可能にする寸前にして、特に半透明の石を使用することによって、それらを純粋な抽象化の点に近づけることです。ロッソ・プロジェクトの彫刻は、私が自分のスタジオを構築した良い例と言えます。それは、フォームとマテリアルの間を行き来できるようにするためです。例えば、《Baby at the Soup Kitchen》では、崩れ落ちそうな石墨の真ん中にわずかに認識可能な乳児の顔が見られますが、これは「Scholar’s Rock」と非常によく似ています。私は、天然素材を使って、最小限にしか手を加えないというコンセプトが好きです。「Scholar’s Rock」は時に自然が与えたものから微妙に強化され、それらをわずかにより完璧にしたり、別の見方を与えたりしました。

《Baby at the Soup Kitchen》では、フライス加工された大きな岩からの鮮やかな赤いクラストによって裏面全体が形成されるように、フォームを拡張しました。遠方の製作者から注文することでは、同じことはできなかったでしょう。私のスタジオで石の美しい自然の表面を見流ことで、初めてそれを組み込むことができたのです。数年にわたって、彫刻を作るために、外部のファブリケーターを使用することがますます煩わしくなったのです。この距離感は、プロセスに直接接続するのを困難にしました。それを是正したいという私の欲望が、私の包括的な統合スタジオ設立の大きな理由でした。私はまだ特定の作品に外部ファブリケーターを使用していますが、イタリアで加工作業を行っている場合でも、その進行状況を監督ために頻繁に現地への往復します。それはブルックリンの“ロボット・ガイ”を使用することで幾分容易になります。進行中の作業を調べるために車を10分走らせるだけです。最終的に、素晴らしいアーティストのチームを補完するために、ロボットをサイトに設置する予定です。やっと夢のスタジオがが完成し、そこには素晴らしい可能性を秘められています。