池田龍雄(1928–2020) 氏がご逝去されました。謹んでお悔やみを申し上げます。

長きにわたる作家人生の中で対立、国家主義、起源、変化という普遍的テーマに向き合い続けた池田氏は同時代の日本人アーティストにエネルギーと多大なインスピレーションを与えました。享年92歳。

1928年佐賀県生。第二次世界大戦下、15歳で神風特攻隊員になるという激動の少年期を過ごす。出撃命令前に終戦を迎え、1948年東京に移住。多摩造形芸術専門学校(現多摩美術大学)に入学、岡本太郎、羽田清輝らによるアヴァンギャルド芸術研究会に参加する。

反戦思想を追求し、ルポタージュと風刺が結実するリアリズム的ペン画を制作。国家からの裏切りに直面した彼の初期作品は、社会の無情さを描き出し、自動化の波に押される世界における個人の責任と自由意志の役割を問いかけ、政治と文化の仕組みに内在する個人間、国家間の矛盾をあぶり出した。アーティストと執筆家によるグループ「NON」を結成。この時期の池田のルポタージュ風のドローイングは国内および国際政治家の腐敗を明らかにし、人間の本質の暗い側面を露わにするグロテスクな生き物やモンスターを思わせるポートレイトへと発展していった。

1960年代様々なモチーフにインスピレーションを得て《百仮面》、《玩具世界》、《解体類項》などのシリーズに取り掛かる。空間と時間への考察のなかで長期間にわたるコンセプチュアル・パフォーマンス《ASARAT橄欖環計画》《梵天の塔》を通し、想像を超える悠久の時間を体験することを試みた。1973年に始まった《BRAHMAN》シリーズでは池田は自らを社会的要因から解放し、恒久の空間に漂うジェンダーレスな胎芽を思わせるフォルムの表現を通して、永遠の真実と至福を描いた。内面に目を向けて自分と宇宙との精神的な繋がりを探り自分なりの創世記を語るこの絵画シリーズを彼は「内と外をつなぐワームホール」と呼んだ。

ファウンド・オブジェクトを用いたアサンブラージュやレリーフ作品、万有引力をテーマとする絵画《場の位相》など表現の可能性を広げ続けた。視覚芸術のアーティストであると同時に池田は非常に優れた執筆者でもあった。

国内外での展示多数。主な個展、グループ展は広島市現代美術館(2018年)、練馬区立美術館(2018年、1997年)、The Warehouse(ダラス・アメリカ、2017年)、ファーガス・マカフリーNY及びSt.Barth(2017年、2015年)、ニューヨーク近代美術館(2012-13年)、山梨県立美術館(2010-11年)。また、池田はリンダ・ホーグランド監督のドキュメンタリー映画「ANPO: Art X War」(2010年)でも取り上げられた。