Marcia Hafif:
Change and Continuity
1962 – 1974
マーシャ・ハフィフ: Change and Continuity 1962 – 1974
1962 年ローマで制作された初期のドローイングは、ハフィフの制作において重要な垂直⽅向の筆跡の反復が初めに現れたもので、本展のスタートにふさわしい作品です。彼⼥は垂直の筆跡反復にキャリアを通じて何度も⽴ち返り、様々なメディアとの組み合わせによってその限界を試しながら、新しい結果を⽬指し続けました。
ハフィフは1961年から69年にかけ、後に「イタリアン・ペインティング」として広く知られる作品群を制作。ローマで過ごしたこの時期に制作された作品を後に作家⾃⾝は「ポップ・ミニマル」と呼びました。アクリルやスプレーを⽤いて描かれる作品は平⾯的でありながら、図の縁の境界線は緊張感をはらみ、地と図の関係性が揺れるようで⼤きな動きを感じさせます。スプレーペイントは当時、⾃動⾞製造に頻繁に使われる⽐較的新しい技術で、覆い隠された部分以外に絵具が付着するため、負の空間を作ることが制作⾏為となります。注意深く観察すると、表⾯に蓄積するかすかな擦れや絵具の溜まりが作家の⼿仕事を静かに物語っています。この偶然と介⼊、存在と不在の間の微妙な緊張感は、その後の⻑いキャリアにおいて重要な関⼼になっていきます。
1971 年ニューヨークに移り住んだハフィフは、当時絵画の存在意義が疑問視さる状況のなか、再び絵画に⽴ち返ることができないかと考えました。鉛筆、アクリル、油、インク、エッグテンペラなどを⽤い、垂直⽅向の筆跡の反復により、様々な素材の検証を⾏うという⽅法論で制作を進めていきます。1974年の⽔彩画シリーズでは

斜めに置かれた画⾯に描くことで、⽔性の顔料に重⼒の作⽤を与え、扱うメディウム特有の性質を敏感に感知しています。ここでもやはり、偶然性と作家としての⼿の介⼊の両⽅による効果を検証しています。
制作場所の地理的な移動だけでなく、鉛筆、ペイント、⽔彩へと扱うメディアも移⾏しますが、ハフィフは常に物質と空虚、偶然と介⼊の間に⾃⾝を⾒出しました。もっとも変化に富んだ時期の3シリーズに⾒られる展開、そして⼀貫して流れる、最もシンプルな絵画的要素に静謐に向き合う創作の姿勢を、ぜひご⾼覧ください。