リチャード・セラとは1980年代初頭、ロウアー・マンハッタンのオデオンで知り合った。あのレストランがまだ辺りに住むアーティストや作家たちの集まるレストランだった頃のことである。私は20代後半、セラもまだ40代半ばだったが、彼はすでに名が知れていたので私は緊張していた。セラは鋭い論客として名高く、それも私を身構えさせた。と同時に、彼が若い批評家などと話したがるのを意外に思った。それも、あれほど夜遅くに。(オデオンに集まるのは決まって夜遅くだったが、長いバーカウンターの上に掲げられたパステルカラーの時計の放つ柔らかな光輪を見ていると、不思議と時間などどうでも良く感じられた。)

セラは当時、オデオンから数ブロック先に設置された《Tilted Arc》(1981年)をはじめとする、展示される空間に合わせて作る大規模な鋼鉄の彫刻を制作し始めた時期で、その夜も同席していたフランク・ゲーリーなど建築家の注目を集めていた。セラ自身の彫刻が近年どのような変化を遂げたかということも話題にあがったが、それよりも彼は、当時注目を集め始めていたシンディ・シャーマンやルイーズ・ローラーなど、その多くが私の友人でもあった。このアーティストたちがもたらしたイノベーションとは何か? メディアにおけるイメージのあり方に強い関心を抱いているようだが、それはポップ・アートの再生産に過ぎないのではないか? こうした批評的な疑念は、彼の闘争心の強い人柄から来るものでもあっただろうが(死者でさえセラの批判は免れないということをこれから読者諸君は知ることになる)、新しいアートについて理解したいという彼の意志に偽りはなかった。彫刻に情熱を傾けてきたセラだが、ほかの実践についても好奇心旺盛だ。この後に続く対話を通じてその好奇心を見て取ることができるだろう。

(続く… )

*本展の開催に合わせ書籍「Richard Serra / Hal Foster: Conversations About Sculpture(リチャード・セラ/ハル・フォスター 彫刻にまつわる対話)」の日本語訳版を出版します(2024年1月中予定)。書籍に関するお問い合わせはこちらから:tokyo@fergusmccaffrey.com

翻訳:Art Translators Collective(上竹真菜美、田村かのこ、春川ゆうき、水野響、山田カイル)、岡田英気
Translation: Art Translators Collective(Manami Uetake, Kanoko Tamura, Yuki Harukawa, Hibiki Mizuno, Kyle Yamada), Eiki Okada